第51回(令和4年)春燈賞 辻 泰子

春燈賞(抄)25句 自選

めでたきは嫁御持ち来る節料理
遺言状記す夫ゐて七日粥
笹鳴や街の喧騒遠からず
鬼やらひ心の鬼と対峙かな
しやぼん玉追ふ飼犬を追ひにけり
断崖の向かうはのどか海青し
釣果あり春の海よりお裾分け
鳥の目で見たき桜の飛鳥山
遠近法の桜並木や段葛
緑陰の木椅子を己が書斎とす
電線に遊ぶ都会の燕の子
梅天や墨痕美しき腰越状
弁慶の腰掛石の梅雨じめり
驟雨来る大海原のひとところ
夕立来て島半分を覆ひけり
通るたび樹下に午睡の男かな
詫び状を書いては消して夜の秋
唐黍を手折れば戦後香りけり
梅花藻は白き踊り子水澄めり
四分音符の水琴窟や秋の声
丸甕に秋天深く映りけり
礼状は夫と連名星月夜
朝露の木椅子に鍵の忘れ物
黄落や丘に一人の太極拳
「おはよう」の声の形に息白し