第50回(令和3年)春燈賞 農野 憲一郎

第50回春燈賞(抄)自選 25句

松飾恵方の風を絡め取る
弟に父の声聞く初電話
酸き菜漬け腹に掻込む四日かな
通夜酒のしづかな乱れ白椿
菜の花や雲ゐを渉る友が魂
ほそ首に蜜のおもたき紅椿
くちなはや天井裏にゐる羅刹
蛇の衣松が肌をかき抱き
礼拝堂へ装ひ軽き五月かな
微笑むと母に似る子や鯉幟
ままごとの客や青梅ぐだくさん
けが敗けを叱られ黒蜜心太
刃砥ぎ師の呼び声ひくき梅雨入かな
月涼し女房が先に湯をつかふ
夏休み石投げ水輪みてすぎぬ
西行に妻子ありけり葛の花
和泉野に朋を尋ぬる草虱
高野山に父の骨片露葎
朝顔の彩をうばひし残雨かな
相方の手も遅うなり障子貼
菊作り咲初めはまず仏壇に
改札窓をたたき物訊く夜寒かな
頑として動かぬ心算いぼむしり
けあらしにゆるりと起動漁り船
風待ちの巨大風車や冬銀河