第49回(令和2年)春燈賞 田中 嘉信

春燈賞(抄)25句 自選

霞敷く丹沢の嶺々富士真白
黒々と老いたる幹や梅真白
うしろ向きに走る少年いかのぼり
はくれんや千の観音在すかに
爪弾けば微風に散る松の花
彩りもて街を縁取る躑躅かな
葉桜や屋形行き交ふ隅田川
白薔薇の白の陰影朝日影
彫り深き紅薔薇ゆらり夕日影
母抛るボール追ふ子や新樹光
木洩れ日を拾うて歩く夏木蔭
振り向いて小さく手を振る白日傘
無心なる疏水の流れ遠郭公
千曲川秋立つ空を映しけり
むら薄揺れて夕日を弾きけり
コスモスの撮られ上手に揺れにけり
色鳥のこゑの降りくる木椅子かな
天高し国の鎮めの大鳥居
色変へぬ松や寿ぐ二重橋
大嘗祭御装束の白極む
映りゐる池の明るさ石蕗の花
池の面を錦に括る散紅葉
屹立の濠の石垣枯葎
白亜館淡き冬日に抱かるる
冬麗の大観覧車富士真近