第47回(平成30年)春燈賞 持田 信子

春燈賞(抄)25句 自選

「通りゃんせ」路地ぬけて行く初天神
鷽替の清めの太鼓ひとつ打つ
筆塚は大硯なり梅ふふむ
陶片を波間に拾ふ実朝忌
鎌倉を俯瞰の鳶や山笑ふ
魚は氷に上り浮上の潜水艦
くもり日の通草の花の雌雄かな
今日生くるいまの幸せ幣辛夷
蓬摘む指にみどりの香を深め
好奇心まだありつくね芋植うる
アカシアの花や見返り峠越ゆ
麦秋や当主の守る長屋門
雨戸引く音に寄り来る緋鯉かな
真一文字に声の飛び交ふ鮎の糶
荒梅雨や坂東一の仁王像
迷ひ込む太郎の世界夏館(岡本太郎美術館二句)
夏空へ思慕膨らます母の塔
数珠玉や記憶の糸をたどる音
己が忌は月の砂漠へ旅立つ日
喜んでくるる人あり大根蒔く
わが影を細身に伸ばす秋入日
椎の実の降るや一張一弛の地
豊の秋百戸の衆の村おこし
海光や濃淡のある冬菜畑
余白なき年振り返る去年今年