第44回(平成27年)春燈賞 川崎真樹子

春燈賞(抄)25句 自選

秋水の澄みきはまりて人拒む
疲れ濃き地球労るやうに月
難民の子の無国籍草の花
古民家や雨の深むる炉のにほひ
凍晴や祈る形の茅の屋根
幸せの貯金のやうに日向ぼこ
古暦揺るるや時の抜け殻とも
砂時計見る見るこぼす今年かな
生あらば白寿の父や年新た
鳩歩む春の目盛を読むやうに
にこにこと下手な噓聞く雨水かな
たまさかに人と生まれて桜餅
わいわいと山独活立てて売られけり
春送る歯科の鏡に口開けて
絵筆持つ画布の白さも清和かな
ヒロシマや名簿曝書の白手袋
流木は地球の遺骨砂灼けて
宇宙葬望む夫や新茶汲む
半夏生咲き夜通しの雨となり
この国を考へてゐる大鯰
押黙る柱時計や原爆忌
はじめてのあんよ浴衣の金魚揺れ
白桃や身籠るやうに種を抱き
ほとけの母の愚痴聞いてゐる墓参かな
死に方を忘れましたと生身魂