
春燈賞(抄)25句 自選
冴返るものに詩を書く指の先
叡山にうす紅の雲雛納
椎の木の芽吹の雨や幻住庵
みちのくへつづくこの道かぎろへる
百代を湧きつぐ水や春の月
緑さすみどりごの掌の生命線
天上になにびと在す朴咲けり
くれなゐの影ひるがへり金魚鉢
みちのくは雲ゆたかなりラムネ噴く
お花畑あまたたび雲通り過ぎ
長旅の雨の一ト日や合歓の花
鮎の腸食ふや星空狭き渓
暗闇にとよむ佞武多の大太鼓
鮮やかな彩撒き散らし佞武多の夜
夜半の雨佞武多の熱をさましけり
秋風や溶けむばかりの山羊の髯
今際の言葉無かりし父や鰯雲
地酒酌むかりがね寒き北近江
落飾の女人の棲みし花野かな
墓碑銘に脱藩の文字鳥渡る
尊王も佐幕も土に草の花
デカルトに似たる乞食や年の暮
ラフカディオ・ハーンの愛でし雪女
知恵の輪の抜けし一瞬冬の雷
蘆の芽や船過ぎてより波の音