第43回(平成26年)春燈賞 西岡 啓子

春燈賞(抄)25句 自選

薄氷の小さき風をとらへけり
人に会はぬ道の長さや木の芽晴
初蝶来こころの灯点しけり
空仰ぎ樹々をあふぎて春なかば
あたたかや日差をかへす草の艶
杭のぼる池のしめりや鳥曇
散り敷きてなほ満開のさくらかな
ふるさとを捨つるにあらず母子草
父の日の空いくたびも仰ぎけり
水無月の人づてに知る話かな
うちなびく夏草の丈敦の忌
初蟬や日々のくらしにやや慣れて(夫退院)
椅子一つ庭に置きある夜の秋
ひと気なき米屋に回る扇風機
風ぬくる竹百幹の晩夏かな
生きてると母宣ふやつくつくし
筑波嶺は目の高さなり秋日和
桔梗の明日咲くゆるびありにけり
指添ふる筆の久しき良夜かな
ふり返る帰燕の空の高さかな
秋雨やかがる糸選る手芸店
秋の日や砂のきらめく水の底
林檎むく幸せの香をこぼしつつ
立冬や夕べ明るき日のさして
冬ぬくし一樹につどふ鳥の声