第25回(令和5年)春星賞 川井 真理子

古都逍遥

花過ぎの母子の旅や空悠々
四方にうぐひす五重塔の白き壁
若みどり小旗をかかげバスガイド
東塔へかよふ薄雲春惜しむ
落慶のゆかしき楽舞風光る
をちこちの春田に日々のくらしかな
大鳥居くぐりてひらく春日傘
藤ゆれて吊灯籠の数しれず
春驟雨回廊の朱美しきかな
迷ひ子にひろき社や春落葉
わらび餅せせらぎに耳すすぎけり
水瓶をさげし観音うららけし
せんべいに辞儀をおぼゆる春の鹿
南大門見上ぐる母や鳥雲に
校倉のしかと組まれてあたたかし
蝶生れて無著の像のかた笑みぬ
春陰の阿修羅に瑕疵なかりけり
春ゆふべ如来の胸の匂ひやか
願掛けのをとこのやがて朧かな
春の灯の母子の旅にまたたきぬ