第24回(令和4年)春星賞 中村 朋子

大時計

たまゆらの風となりたる春ショール
うららかや試書きして買はぬペン
白木にほふ幸稲荷初つばめ
万愚節懲りぬ女でありにけり
花ぐもり歩けば癒ゆる疲れかな
大時計揺らぐ炎暑の交差点
水打つて名を知らぬ草いとほしむ
室外機うなる路地うら蟻の列
天井に声の渦巻くビヤホール
白シャツや透ける上腕二頭筋
ゆつたりと注ぐワインや星まつり
マネキンのながむる虚空終戦日
つづれさせ文壇バーを覗きけり
秋霖や画廊の金のノブの冷
ミキモトの聖樹に人を待ちし日も
迫りくるイルミネーション雪催
大歳の星へ連なる尾灯かな
行列の一番さいご春隣
髪切つて踏み出す一歩冬すみれ
寒晴や永久を見つむる大時計