第22回(令和2年)春星賞 大平さゆり

今朝の薔薇

神の留守検査数値のうごめきぬ
初時雨放射線室みな地階
余命てふ言葉飲み込む薄氷
君と行かむ放射線治療といふ焼野
タクシーの夫の膝へと春ショール
入院の帰りはひとり朧月
病室の白きを出づや花菜畑
初蝶の白に快癒を祈りけり
点滴を見上ぐる一日花の雨
不精髭の男の色気春灯
忘れ霜骨髄注射の痕青く
花の香を髪にまとはせ見舞ひけり
桜隠し見送る君の立つ窓も
こんなにも花盛りの路退院日
浮苗や移植細胞根づけよと
夕虹に抱かる共に生くる街
シャツの袖濡らし持ち来る今朝の薔薇
夫の歩や空の深みに新樹鳴る
信号のマーク駆けだす青嵐
来年は阿蘇を歩かむ夏の空