柿たわわ —追憶記—
侘助のうすももいろや妹うまる
耕人の父にしたがふ鳥の数
売られゆく二匹の子やぎ雛の家
春昼の母を泣かすや死の病
玄関にわが家のつばめ迎へけり
深息す薫風しばしとどめむと
かくれんぼの鬼のこさるる余花あかり
さみだれやひとりあそびの母のへや
おしおきの闇に干草にほひけり
たからもの持ちより蚊帳の兄妹
牛冷す山の入日をしたたらせ
家の灯のすずしや母の起居にも
台風とて一家こもれるうれしさよ
深みゆく闇に落穂をひろひけり
小春ぞら四十路の母の野辺おくり
暮れのこる追羽根のこゑ妹嫁ぐ
父のなき父の田圃の春げしき
母衣蚊帳にいつかかへる日あらむかな
石垣の柿のあをぞらあるばかり