第4回(平成14年)春星賞 岩井 泉樹

廻り舞台

地虫出て大学卒の草履取り
青春の一途一年下萌ゆる
弟子・家来・書生・付け人田螺鳴く
憧れの楽屋暮しや風薫る
三助も修行の内の薄暑かな
楽屋階段師の尻押す白浴衣
楽屋必携七つ道具の大団扇
夏袴芸は盗めの親心
ぎしぎしと廻る舞台の秋暑かな
出衣装のままのごろ寝や秋簾
螻蛄鳴いて旅の楽屋の電気釜
大部屋の畳の染みや秋時雨
化粧前の裸電球残る虫
芸名の身に馴染みたる小春かな
煮凝や師匠と弟子に父子の情
好きでこそ成る辛抱や薺粥
石の上にも十年の春立ちにけり
師の終の舞台姿や冴返る
遺影ただ微笑むばかり桃の花
「幹部昇進」師の置土産弥生尽