第26回(令和6年)春星賞 櫻井 理恵

一期一会

一門を率ゐる卒寿釜始
師の背を追ひし歳月あたたけし
花明り客の挿したる一枝かな
蹲踞に水輪を残す雀の子
方丈の手植ゑの庭の利休梅
ギヤマンの碗の影生む青畳
繰る指の涼しき袱紗さばきかな
所作正す師の声通る夏座敷
生涯を茶の湯とともに水引草
邯鄲や初心に戻る辞儀深し
こぼれ萩茶碗の歪み愛でにけり
取落とす銘ある茶杓秋の暮
皺も斑も美しき点前や名残の茶
街騒を離るる露地の石蕗の花
坊守の手入れの庭や花八手
夜咄の燭の揺らめく小間の壁
茶を点つる指以て炭をつぎ足せる
埋火や師の技いまだ盗み得ず
白足袋の踏み出す一期一会かな
床の間の寿の軸年惜しむ