介護日誌
輪飾や末広がりの室番号
壁に貼る入浴表や初暦
抗菌の手袋うすし冴返る
淡雪に痰のからみのゆるびけり
囀りや真昼こゑなき談話室
指で問ふ妻に答ふる朧かな
蜷の道身をひきずりし跡ばかり
後見とふ妻の代理や梅雨深む
涼しき声きくところまで白昼夢
「声欲し」と書きて形代流しけり
万緑の中へと押すや車椅子
蜩やバリアフリーの妻の城
天高し車椅子ごと量られし
負けん気の強きは血筋鵙の声
蚯蚓鳴く心読める日読めざる日
冬日中妻かなします下着替
晩餐とよびて聖夜のチューブ食
冴ゆる夜の帰心にふるる泪かな
鳥雲に行く末という責負ひて
縋る身を抱きて寄りぬ花の窓