第14回(平成24年)春星賞 佳作 近 昌夫

山眠る

鉱のあかがね色のすすきかな
葛咲いて坑口堅く閉ざしけり
採掘を終へし足尾や山眠る
遠き日の足尾千軒しぐれけり
風花のまつはる髪やがれの道
着ぶくれて一人訪ぬる峡薄暮
注連張るや通洞坑の五百年
廃坑に風つきささる寒の入
冬の虹煙突高くのこりけり
梅かをる渡り坑夫の墓標かな
渡良瀬川の源流はろか残る雪
いたどりを嚙む石塊の小径かな
坑口にのこる盤あと草いきれ
なんぴとも寄せぬ廃鉱ほととぎす
梅雨深し川のほとりに寺一宇
瑠璃とかげ長屋の跡に棲みてけり
備前楯山の露頭を染むる夕焼かな
青葉木菟月の光に眠りけり
せせらぎに交じる河鹿の高音かな
禿山に植うる緑やたゆみなく