第13回(平成23年)春星賞 篠原 幸子

夕河鹿

春立つや絵馬の願文あふれ出づ
まんさくのほつほつ咲いて日のゆらぎ
淡雪のあなどりがたき重さかな
独活の香に母郷みちのく地震のこと
逆境に負けじと伸ぶや蘆の角
いづくへも旅立ちかねて春の鵙
金盞花あるがまま生きこの後も
実桜に久闊叙する一ト日かな
はりつめし心ゆるびぬ鹿の子百合
土手の端にほたるの恋をのぞきけり
ほうたるを籠めし母の掌白かりき
青田から青田をつなぐ遠汽笛
手にむすぶ水の明るき山清水
夕河鹿ことなき郷に安堵かな
夜の秋座敷わらしのよぎりけり
常よりはねんごろにする盆仕度
千振や苦言といふも今はなく
夕光に葉蘭のさやぐ秋彼岸
月の舟かたぶくほどに母を恋ふ
眼裏の峡の紅葉の絞り染