第12回(平成22年)春星賞 都丸 美陽子

水無月

雲湧くや稜線青き雪解富士
赤き実を啄む鳥や半夏生
岩清水袖をぬらして掬ひけり
樹林いま鳴交しゐるほととぎす
梅雨の蝶さびしき昼をさまよへり
風音に耳すましゐる子亀かな
隠沼や道もをはりの草茂る
落し文拾うてみたし師の忌なり
あぢさゐの紺師の色と思ひけり
塔の影ゆらぐ水面や風青し
かはせみの青ひとすぢの速さかな
ひたすらに囲を張る蜘蛛を払ひけり
舌足らずの夏鶯や雨を呼ぶ
栗の花雨本降りとなりしかな
売切れしビニールの傘花うつぎ
十薬の命ひしめく香なりけり
雨やんで柘榴の花の朱を極む
風の百合こころ揺るがすひと日かな
行末はとまれ人恋ふ火取虫
水無月や遠のくは師のうしろ影