涅槃西風
高札の湯元の縁起涅槃西風
寒村に間引の哀史しやぼん玉
客死てふ碑文の結び鳥雲に
秀峰の水迸る山葵沢
緋の幟野道に続く一の午
春光をのせて蛇行の千曲川
まんさくや間歇泉の噴き上がり
古戦場の雨脚ほそし初桜
強東風の空を睨めつけ鬼瓦
刃文めく遠山脈の残り雪
信玄の隠し湯なりし魚は氷に
鉈彫の仏にそなへ五加飯
囀りや蔵の二階の明り窓
春日影大正の玻璃歪みけり
あたたかや絵双紙のいろいたく褪せ
湯桶置く音の響ける遅日かな
山の湯の溢れ朧となりにけり
残雪の山鴇色に暮れにけり
春三日月姨捨山の肩に出づ
蕎麦殻の旅の枕や遠雪崩