第16回(平成26年)春星賞佳作 近 昌夫

遊行柳

「白鳥来」と葉書いちまい佳き日かな
立春大吉那須野ヶ原に水の音
那須五峰仰ぎものの芽育ちけり
春田打つ若き夫婦や乳母車
下萌の小屋に仔牛の生まれけり
野火あがるもののふ駆けし古戦場
鳥帰る寂光の沼明りかな
朝ざくら山をそびらに開拓碑
灌漑の水のゆたけき清和かな
雉子鳴くや日照雨に濡るる岐れ径
旅人にしたしき遊行柳かな
草に木に光のしづく夏きざす
新緑や巌つらぬく那須疎水
犬追ひの那須の篠原青あらし
かはたれや森の奥よりほととぎす
夏木立ふもとの牛の見え隠れ
むらさきに明けゆく空や額の花
うつばりや夏炉くすぶる山の雨
草いきれ翁の道を辿りけり
朝露の径踏み分けて峠越ゆ