第17回(平成27年)春星賞佳作 近藤 真啓

神の手

元日や湯を沸かしゐる当直医
混み合へるいびき外来日脚伸ぶ
大学のロゴ入り義歯や春闌
嚙んでみせ笑つてみせて麗けし
青帝や透明帯を溶く精子
仮説また閃く朝や揚雲雀
窓若葉チョークの音の軽やかに
講義終へて白衣の袖に拭ふ汗
黴の香や原著に悟る進化論
論文の山を枕に三尺寝
西日射す廃液室のガロン瓶
天秤の揺れの止まらじ敗戦忌
吸口に群るるマウスや水の秋
露けしや腹腔に打つ麻酔薬
薄切脳筆もて掬う夜長かな
まだ解けぬ神の法則九月尽
献体の軽き棺やしづり雪
黙禱に鋸のひと引き冬ざるる
人魂なほ骸に纏はる寒さかな
背信の指にて割るや寒卵