夏日影
麦秋の山路踏みしめ登りけり
天辺に放てるこころ雲の峰
ケルンひとつや一瞬の青春期
木道をゆくやあとさき時鳥
緑蔭にかろき会釈のふたりかな
山路来て滝一本の止めなす
吊橋の人影あはき芒種かな
花は葉に人ごゑ満つる宿場町
おほでまりの奥にちりめん民芸店
万緑や茅葺の駅ひとつ置き
さざなみに雲ほぐれゆく植田かな
消ゆるともなく遠雷のきえゆけり
ロープーウェーのゆるき時間や夏日影
伝説の石に震へり黒揚羽
芭蕉玉解く源泉の湯のけむり
風鈴や湯宿の静寂深まりぬ
釣忍湯場ゆく人も暮れにけり
湯の底の小石のまろみ星涼し
川音を招き入るるや夏料理
湯あがりのにほひのままの端居かな