
春燈賞(抄)25句 自選
啓蟄やどこかに眼あるクレーの絵
弱法師の心に没りし彼岸の日
カデンツァのピアノ湧きくる夜の朧
捨て鉢に落されてあり蝌蚪の紐
喪帰りは道違へねば鳥雲に
花散るや阿修羅の眉根さらに寄り
討死もおぼろや寺に血天井
老鶯や屋敷の失せし屋敷林
滴りや嗣治の「裸婦」透けるほど
桐の花芙美子旧居は坂がかり
信長忌米粒ほどの伽羅を炷き
セ・シ・ボンと越路は逝きし巴里祭
懲りず買ふ画展の図録もどり梅雨
楊貴妃も犍陀多もなしはちす咲く
河童忌や田端に旧りし波山の居
風の道猫に知らさる秋暑かな
戯へして義経堂よりただ秋思
御神酒所に一日氏子秋祭
「子を取ろ」の子を羨しとも鬼の子は
開くかに歪みし「扉」秋の声(祐三画)
万灯の一振り太鼓どよめきぬ
若冲の賽の河原や冬の虫
勧進帳羽子板市の押し問答
冬紅葉いまだ燃えをり天智陵
念仏の太鼓ひた行く寒夜かな