第37回(平成20年)春燈賞 久本 久美子

春燈賞(抄)25句 自選

神籤のままに失せ物出でにけり
観音の御肩拭ふ春の水
買へさうな伊万里豆皿春きざす
出羽海井筒春日野水温む
子の国は時差十時間鳥雲に
花びらとともに流るる神田川
門楼に立つや緑の京の町
花橘遠くにほへり紫宸殿
神苑にモネの睡蓮目覚めけり
風鈴や祈ぎに書かれしおばんざい
律を呼ぶ子規の声とも花糸瓜
六尺に臥して玻璃戸の雲の峰
自画像のもの言ひたげな大暑かな
手足伸べ寝茣蓙の海に浮かびけり
一灯をイコンに献じ秋涼し
ニコライの鐘は色なき風に乗り
蜻蛉や日比谷の森のレストラン
思ひきり雲が絵をかく秋の天
億年の石門穿つ秋怒濤
鳥渡る伊能図ここに始まると
山寺や千百余段冬紅葉
初しぐれ芭蕉の踏みし四寸道
鳥獣戯画に遊ぶ一日や暮早し
凩や陶の狸は立ち通し
山に撞く除夜の鐘の音沖に消ゆ