
春燈賞(抄)25句 自選
農機具の描く細畝日脚伸ぶ
卓の椿夜の閑けさに落ちにけり
梅林を抜けて小曲り日豊線
三界に家ありてこの菜飯かな
年忌とて書かねば忘れ鳥曇
沈丁をぬけ来し風の香りけり
朧夜の夢で逢ひしは皆故人
誘はれず誘はず黄金週間過ぎゆけり
浮世絵の一重瞼や夕薄暑
桜蕊降る陸軍墓地の忠魂碑
穀雨かな仕立直しの紺絣
地に近く牡丹は色をひそめけり
水色の朝の来てをり額の花
四阿に雨ひきよする七変化
あぢさゐや友つぎつぎと寡婦となり
涼風の真直ぐに抜くる畳の間
赤紙もて決まる運命うそ寒し
舞鶴の海に父恋ふ秋の虹
湯豆腐や無口な夫と摂る夕餉
小春日の杖はなやかやクラス会
秋澄むや易やすと越す県境
蒟蒻玉歪み坐しゐる道の駅
東山魁夷の白馬秋涼し
白萩を揺らす程良き風の向き
シベリアの極寒を知る父の匙