今月の句

今月の先師の句

久保田万太郎

   遮莫焦げすぎし目刺かな
   馳けだして來て子の転ぶ秋の暮

今月の主宰の句

宮崎 洋(みやざき・ひろし)

きよらかに華やかに恋カラー咲く
白南風に向かひて画布を立つる朝
緑の夜ひとの声てふ美しきもの
駆込めば迎へくれたり花うつぎ
卯の花から卯の花仏から仏

春燈誌 令和7年8月号より

今月の注目句 〜燈下集より 

宮崎 洋選

夏雲を旗のごとくに賤ヶ岳西川 保子
朝顔や火災のあとの路地住まひ 園部 蕗郷
母の日や母親演じひと日老ゆ木多芙美子
千枚田風のつなぐる田植唄江草  礼
椎若葉腕あるごとく夜を抱く金山 雅江
三十七兆の細胞はしやぐ更衣かな川崎真樹子
一つ前の駅より風に祭笛辻  泰子
はつなつや発止と雲を掴む藤小林 文良
アスファルト灼けトロットを踏む鴉後藤  大
眠られぬ章魚足を掛け北斗の柄西村 洋平
被災地の空の広さよ鯉のぼり福田 水明

春燈誌 令和7年8月号より

当月集の巻頭作品

鈴木 れい香(すずき れいか)

まだ何も踏まぬ足裏や若葉風
最果てのくゆる卯の花腐しかな

函館の灯よりも明し烏賊釣火
何時よりか身につく手酌初鰹
幸せの少し歪みて金魚鉢

春燈誌 令和7年8月号より

蒼雲集

兼題 「短夜・鮎」

【特選】
夢だけの人とゆく旅明易し近藤美保子
かりそめの恋ならすまじ明易し櫻井 理恵
短夜や市場見下ろす癌センター小泉 三枝
波音は夢のつづきか明易し佐藤 信子
短夜や栞がはりの拡大鏡浅木 ノヱ
をとりとは知らないままに囮鮎小倉 陶女
何思ふ夕日に染まる生簀鮎三上 程子
友釣りの鮎売られゆく水あかり渡辺 真澄
更けてなほ水音高き鮎の宿佐藤 信子
鮎焼くや暮れて大きな山の影小山 繁子

春燈誌 令和7年8月号より

今月の推奨句〜当月集・春燈の句より
三代川玲子選

たとへなきあはひにゐます紙雛大谷満智子
ロックフェスこれを食らへと春霰山口  茂
なにもかも持てる雛に翳ありて小出みずき
海苔篊を見廻る沖の明るみに井手 浩堂
春装の女子会二次会三次会川本 達子
上州の風に始まる芽吹かな渡辺 真澄
大阪やネオンに染まる猫の恋久保八重子
みすゞ忌のみえぬ昼星いぬふぐり内田 聰子
あの春よりがんばつぺとて十四年若松 恭子
リラ咲いてゐますか黄泉比良坂に奥田 眞二
忘れ物取りにくるよな春の雪柳口千津子
花吹雪老父無言の紙パンツ杜  青春
空を蹴る乳飲み子の足うららけし江田 紫音
春眠の猫はまんまと爪切られ内川ゆう子
淡雪の重さに鶏を締めにけり内藤 羊皐
春休み御八つに食べし味噌むすび菊池 宏義
蕗味噌や人生後半ほろにがし中村 宏子
三月の十日十一祈りの日安達 絹子
白梅の遅き開花や永晃忌武石由利子
蛇出でてとぐろ巻くこと忘れけり竹中砂帰路
のつぺりと畦の野仏春を待つ村上 國枝
死語となる寿退社桜咲く橋本貴美代
春の雨かつての書肆に雨宿り藤原 典子
じりじりとあをが染み出す春の土神山 太郎
愛してるあなたにあげるチューリップ齋藤 久子

春燈誌 令和7年8月号より