今月の句

今月の先師の句

成瀬 櫻桃子

   母が着物売つて買ひきし外套ぞ
   地に落ちぬででむし神を疑ひて

今月の主宰の句

宮崎 洋(みやざき・ひろし)

彫られたる家名すずしき御影石
伸ぶる枝を日傘としたる敦句碑
炎天に黒松威儀を正しけり
椅子二つ置けば稽古場火取虫
成田にて迎へくれたるはたた神

春燈誌 令和7年10月号より

今月の注目句 〜燈下集より 

宮崎 洋選

七月の心新たにビール酌む橘  正義
この先は一生大人ところてん太田佳代子
言の葉の癒しの力合歓の花久保 久子
水面なづるやうに羅たたみけり浅木 ノヱ
一部始終知るハンカチを濯ぎけり近藤 真啓
ビアガーデン人それぞれの幸福論山下 朝香
三伏の街嘗め尽くす入り日かな田中 嘉信
香水をいち枚まとふ重さかな山浦 紀子
羽化登仙ならず死したり夜の蟬中上 馥子
老いの口真一文字や夏深し山本 泰人
送り出て佇んでゐる夜の秋西本 花音
現世をちよつとはみ出す端居かな川端 正紀

春燈誌 令和7年10月号より

当月集の巻頭作品

鈴木 れい香(すずき れいか)

ハンカチの白さ際立つ沖縄忌
どうせなら笑ひ声あげ浮いて来い
白昼の火影となりて凌霄花
片かげり黒猫影を置き去りに
白百合の夢の中まで眩しめり

春燈誌 令和7年10月号より

今月の推奨句〜当月集・春燈の句(七月号より)
三代川玲子選

古古古米蔵を出でたり梅雨晴間折山 正武
更衣母のもの着て母に逢ふ若松 恭子
緑陰に誰彼無しの円座かな及川 わか
薫風や打ち返したる球の音畠中 圭子
房総の海は球体夏は来ぬ佐藤 享子
歯舞に手の届かざる青葉潮元山百合子
白砂に落暉沁み入る沖縄忌津澤  祥
たたたたた雨の音する柿若葉八木 恭子
表札は変はれど軒に初燕小山 閑人
噓つかぬ言うて噓つく合歓の花中野 浚次
小鰺刺釣果ねらひの急降下進藤 紀夫
父の日や巨人・大鵬・玉子焼髙橋 天音
写真には残らぬ日々や街薄暑加藤 申女
万緑や走り出す子と走り出す松田ひかり
洗顔の水手にあふれ夏は来ぬ藤原 幸子
原爆図に唇かはき夏きざす(丸木美術館)斉藤みちよ
一円玉積り積りて梅雨に入る高品ケイ子
けふのこと明日に残して髪洗ふ金子 和実
中断の後の虹へと逆転打富田 修身
来し方の大方セーフ風薫る木村 範子
良き色に漬かりたる茄子祖母の糠深川 節仙
夏雲やあと千歩にて一万歩大橋 遊兎
針小棒大に言ふ癖サングラス伊藤佳菜子
夏立ちぬ少女十五の誕生日山岸 風子
毛虫ゆく風にそよげる毛をたてて古谷 昌女
重力を忘れてゐるや糸蜻蛉山本 貴大
青バラを探し求めて覚むる夢鈴木 毒太
ハンガーのスカート踊る若葉風渡辺ナナ子
くちなはの増水の川渡りけり水嶋 ゆう

春燈誌 令和7年10月号より