今月の句

今月の先師の句

久保田 万太郎

   人情󠄁のほろびしおでん煮えにけり
   雪󠄁の傘たゝむ音してまた一人

今月の主宰の句

宮崎 洋(みやざき・ひろし)

篠笛のいつしか唱歌秋立つ日

星今宵札幌便にとなりあふ

雲割つて星々あすは敗戦忌

君が髪梳く竹の春を梳く
秋蟬の声さざなみに心字池

春燈誌 令和7年11月号より

今月の注目句 〜燈下集より 

宮崎 洋選

今朝の秋皿、皿、皿を洗ひけり松橋 利雄
蔦もみぢ恋の裏窓開きをり小張 志げ
星ひとつ添はせて赤き盆の月栗原 完爾
詔勅を水腹で聴く終戦日廖  運藩
終戦日鎮魂刻む古時計髙杢 良子
山上に武士の魂充ちて霧瀬戸 峰子
「裸ですんまへん」と女性の宅配に懸林喜代次
手鏡に見る病窓の月明り農野憲一郎
ぐづる子を抱きて流れ星ひとつ有川 秀一
秋刀魚焼く焼いてひとりと思ひけり木下 光代
迷ひ猫今宵は月の客とせむ竹内  陽

春燈誌 令和7年11月号より

当月集の巻頭作品

畠中 圭子(はたなか けいこ)

淋しければこの虹の橋わたれさう
糸口のあるはず烏瓜咲いて
かなかなの透きとほるともそよぐとも
水筒の氷カランと敗戦忌
万物の疲れ果てたる残暑かな

春燈誌 令和7年11月号より

今月の推奨句〜当月集・春燈の句(九月号より)
三代川玲子選

艇庫棟の扉全開大南風鈴木 れい香
湘子の沖草田男の沖六月尽佐藤 享子
みづうみを走つてきたる夕立かな金子 和実
洗ひたての六月の風蔵の町辰己 久美子
青梅雨や飛鳥の倉に古米の香尾崎 俊明
田水沸くチェリオの自動販売機垣内  誠
袖に待つ群舞の少女青葡萄山下 ゆき乃
梅雨曇留め難き背のボタンかな松田 ひかり
枇杷の葉で染めたる風の夏のれん指方 明惠
下町へ声の出てゆく夏祭五明 紀春
箱庭にゴジラとモスラ対峙させ辻  雅風
冗舌な江戸風鈴を制しけり伊藤 洸楓
跨線橋に佇む漢太宰の忌三浦 民男
台風圏健診結果待つて居り遠藤 レイ
炎昼に積むビル解体の瓦礫加藤 カナ子
遺されし者それぞれに雲の峰鈴木 淳子
自販機に吸はるるコイン星涼し真如 和子
山法師ひとりの雨の音たのし飛鳥 もも
七夕や選挙潮目の変化あり亀田  稇
子と保つほどほどの距離夏つばめ米山 千恵子
きうきうと泣き声たつる茄子洗ふ小林 信子
暑き日や極地に氷溶くる音米山 雲雅
黄あやめは野良の手みやげ父の花鈴木 玲子
母と子の似たる筆跡星まつり内海 茂子 
あめんぼう水のゑくぼを走りけり宮川 廣充
七夕の行きつ戻りつラブレター杜  青春

春燈誌 令和7年11月号より