今月の句

今月の先師の句

成瀬 櫻桃子

  さみだれも泪もH2Oなり
  日脚のぶ電車にくらしの裏みられ

今月の主宰の句

宮崎 洋(みやざき・ひろし)

十年経ても大川黙の春
集ひたる風やこでまり育てをり
エンディングノートは句帳春の風
虚貝春雨を溜め日をためて
花万朶支ふる幹の男振り

春燈誌 令和7年7月号より

今月の注目句 〜燈下集より 

宮崎 洋選

鷹鳩と化して大寺領しけり木村 傘休
川端の低き家並や鳥雲に 尾野奈津子
飾らねば雛が泣くとのたまふや諸岡 孝子
万愚節視力検査の当てずつぽう佐渡谷秀一
春愁を可燃物とすゴミ出し日三代川玲子
飛花落花秘話の残りし峠かな木村 梨花
風あそぶ桜蘂降る子規球場持田 信子
川に向く瞑想の椅子花の宿杉山乃ぶ子
不可解の楽しかりけり栄螺焼く阿知波公子
また遊ぶ約束のままたんぽぽ野大関 博美

春燈誌 令和7年7月号より

当月集の巻頭作品

久保・八重子(くぼ・やえこ)

ふらここに月の子どもが来て遊ぶ
彼の世へと共に舞ふならこの黄蝶
鳴き砂を鳴かせて春を惜しみけり
悔いなきや無きと答ふる竹の秋
言葉みな風に消えゆく柳絮かな

春燈誌 令和7年7月号より

蒼雲集

兼題 「万太郎忌・卯波」

【特選】
墨堤をゆつくりあゆむ傘雨の忌田中 嘉信
我一人万太郎忌の風炉手前井野  紫
真砂女なき安房の卯波の高からず鷹崎由未子
俊寛の足摺の浜卯波寄せ片山 博介
海の色日毎に変はる卯波かな稲田  覚
踏切の先は真白き卯波かな畠中 圭子
鎌倉能果てて卯波の蒼きかな高橋 寛子
人恋うてひと日卯波を見て飽かず大平さゆり
泣かぬ女生まるる浜や卯波立つ武田 巨子
卯波立つ恋には遠き身となれど矢口 笑子

春燈誌 令和7年7月号より

今月の推奨句〜当月集・春燈の句より
三代川玲子選

記紀よりの大和三山笑ひをり鈴木れい香
菊菜和へ五勺の酒と夫あらば米川喜美代
菜の花色のシフォンケーキやふつはふは小泉 清子
姫糊のくつくつ煮えて春隣大濱たい子
のんのんと富士の湧水春の音(忍野八海)丸山みつほ
早春や一句を得たる物干し台斎藤 泰子
春耕や地球の底を裏返す三本 英理
馬運車に窓なかりけり春の雨稲田  覚
題名のなき一日や寒昴岩田 祐子
納めけり五人姉妹の古雛𠮷原世都子
凩や腕より大き航ひ綱下宮 秀次
のほほんと三月の雲見てをりぬ神宮司和子
やまびこのくすぐつたいと山笑ふ三田さちこ
すれ違ふ人美しき朧かな宮原 恵子
鶏合せ顔を真赤にけしかくる金森捷三郎
近道はたとへば菫咲くところ福井 拓也
合格を報せて風のまぶしかる鈴木 淳子
妹に母のなで肩春ショール菊池 宏義
春満月写メールのみの子の便り望月 郁江
兵潜むトロイの木馬四月馬鹿有馬 幸月
春日燦青鮫あそぶ九十九里木村秋草子
囀は朝日の賛歌雀二羽佐々 涼子
ゆつくりと大気息づく野焼かな大野喜久子
遠き日の父の声聞く磯遊髙桑 夏代
声かけて座るベンチのあたたかし熊谷 順子
落椿拾はれたくてわれを待つ小菅 澄重
躓きはちひさき石や犬ふぐり後藤 康乃
新しき掃除機軽し春障子上野美和子
突堤の出船入船春かもめ木下 幸子
雛飾る遠に住む子の真珠婚辻本 和子
もの書きて爪痛くせり春の闇藤原 光子
午前様言ひ訳ばかり猫の夫呉  桂君

春燈誌 令和7年7月号より